2017年4月7日、東京都は「蜂蜜」摂取による乳児ボツリヌス症の発症により、足立区の生後6か月の男児が死亡したと発表しました。乳児ボツリヌス症の発症の大半は「蜂蜜」が原因と言われておりますが、具体的にどういうものなのでしょうか。今回は、乳児ボツリヌス症について見てみましょう。
1. 乳児ボツリヌス症とは
乳児ボツリヌス症とは、1歳未満の乳児が「蜂蜜」や「黒糖」などの食品に混入したボツリヌス菌を食べることで発症する感染症です。食品とともに食べられたボツリヌス菌は体内で増殖し、その菌が産生した毒素によって症状が出現します。
ボツリヌス症にはこの他、ボツリヌス食中毒や創傷ボツリヌスなどがあります。ボツリヌス食中毒は、食品の中で増えたボツリヌス菌が出す毒素を摂取することで発症します。必ずしも、菌そのものは体内には入りません。創傷ボツリヌスは、傷に感染した菌が出す毒素で発症します。これらは乳児ボツリヌス症とは区別されています。
・乳児ボツリヌス症:ボツリヌス菌が体内に侵入、増殖し、体内で毒素を産生する
・ボツリヌス食中毒:ボツリヌス菌が産生した毒素が食べ物とともに体内に入る
乳児ボツリヌス症は1歳未満に発症リスクがあり、なかでも生後1~6か月の頃の乳児が発症しやすいといわれています。その理由は、生後1歳を超える頃には消化器官が発達し、腸内細菌の環境が整ってくるので、体内にボツリヌス菌が入り込んでも増殖できないためです。
これが、大人が蜂蜜を食べても大丈夫なのに、乳児だといけない理由でもあります。
2. 乳児ボツリヌス症の主な症状
ボツリヌス毒素は神経系を麻痺させる毒素です。乳児ボツリヌス症を発症してしまうと麻痺が起こり、身体を動かせない状態に陥ってしまいます。
具体的には、
- 便秘になる
- 元気がなくなり、泣き声も弱くなる
- 母やミルクを飲む力が弱くなる
- 無表情になり、全身がグッタリする
- 呼吸不全になる
致死率は、ボツリヌス食中毒や創傷ボツリヌスに比べると低いですが、それでも数%あるといわれています。
3. 乳児ボツリヌス症の原因と予防
乳児ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が混入した食品を食べることで発症します。
1歳未満の乳児は、消化器官が十分発達しておらず、腸内細菌叢(腸内細菌の環境)も整っていないため、食べられたボツリヌス菌が腸内で増殖し、毒素を産生します。しかし、生後1歳を超えると消化器官が発達し、腸内細菌の環境も整っていくため、ボツリヌス菌が腸内に入っても発症しにくくなります。
ボツリヌス菌は自然界に普通に存在する菌で、
- 蜂蜜
- 黒糖
- 黒砂糖
- 野菜ジュース
などに混入している可能性があります。
ボツリヌス菌は「芽胞」という、非常に硬い殻のようなものをつくります。この芽胞は高温に対して非常に強く、100℃に数時間、120℃にも数分間、耐えうるといわれています。そのため、調理の際に蜂蜜などを加熱処理しても、その中にボツリヌス菌が生き残っている可能性は非常に高いです。
従って、乳児ボツリヌス症を予防する唯一の方法は、「1歳未満の乳児には蜂蜜など、ボツリヌス菌が混入している可能性のあるものを食べさせないこと」です。
ちなみに、ボツリヌス菌が産生する毒素の方は、100℃で数分、80℃でも30分ほどの加熱で壊れます。ですので、ボツリヌス食中毒の予防は「よく加熱すること」になります。
乳児ボツリヌス症は1986年に国内で初めて確認され、国内の死亡例は今回が初めてです。
親として防げることは防ぎたいと誰もが思われていると思います。乳児ボツリヌス症も正しい知識を持っていれば防げるものです。このコラムをはじめ、正しい知識が一人でも多くのご両親の元へ届くことを願っております。
著作:日本はぐケア協会