生活習慣の影響なのか、晩婚化が原因なのか、不妊治療がスポットを浴びることが増えてきています。
そこで、産婦人科医として不妊治療を分かりやすく整理したいと思います。

「不妊治療」とは一言で言うと、「赤ちゃんが欲しくてもなかなか授からないカップルに対して、医学的なアプローチで妊娠してもらうこと」です。
不妊症の定義が「妊娠を希望する男女が避妊をせずに性交渉を行なっているにも関わらず、1年以上、妊娠しない状態」ですので、基本的にはこれに当てはまるカップルが対象となります。

不妊治療の目的は「妊娠」ですので、100%結果重視です。
極端な話、妊娠さえできれば良い訳で、例えば「○○を食べたら妊娠した」、「○○したら妊娠した」みたいな、半分、都市伝説的な方法でも問題はありません。ただし、「治療」というからには、ある程度の医学的知識や経験の裏付けが必要で、それらをまとめたものが「不妊治療」とよばれるものになります。

そういった意味での不妊治療は、実はそれほど多くありません。以下に、簡単なものから挙げていきます。

○タイミング療法

基礎体温を測ったり、経膣超音波で卵巣の様子を観察したりして、排卵の日を可能な限り正確に把握し、そのタイミングで性交渉を行ってもらうものです。一般に、排卵は月経初日から約14日目前後に起こります。分かりやすく申し上げますと生理が終わってから1週間前後に排卵すると言えます。ただし、これは月経周期が28日前後の人のことで、それよりも長い人は排卵はもっと遅くなることが多いです。

このことは意外と知られていなく、例えば月経周期が35日前後の人は21日目くらいに排卵することが多いのですが、そういった人が14日目にタイミングを取っていても、なかなか妊娠できなかったりします。また、月経が完全に不順の人などは、自力で排卵日を特定するのは難しいかと思われます。

このような場合には、排卵のタイミングをしっかりと把握するだけで、あっさりと妊娠できたりもします(それ以前の解決策として、性交渉の回数を増やせば良いというのも、ある意味、真実です)。

○人工授精(AIH)

排卵のタイミングを把握して性交渉をしているのになかなか妊娠しない、という場合には、何らかの理由で妊娠しにくい要因が存在しているかもしれません。

例えば、精子の数が少なかったり、動きが悪かったり、あるいは子宮の頚管から出る粘液と精子との相性が悪かったり、通常より妊娠しにくい状態なのかもしれません。

そのような場合には膣の中に射精するのではなく、細い管を使って精子を直接子宮の中に入れてあげる方法が有効です。それを「人工授精(AIH)」と言います。これを行いますと、子宮頸管という子宮の出口のトンネルの部分をショートカットできるので、子宮内に入る精子の数が多くなるのと同時に、卵子までの距離も短くなるので、精子が卵子までたどり着いて受精できる確率があがります。

内診台に上がっての治療になりますが、痛みもないですし、費用も1回1万円前後と言われています。このAIHを行った場合、3回目までで約70%、6回目までで約95%が妊娠すると言われています。逆の言い方をすると、そこまでやって妊娠できないのであれば、次のステップに進んだ方が良いということになります。

○体外受精

いわゆる、本格的な「不妊治療」です。タイミングやAIHでも妊娠できなかった場合、あるいは両側の卵管が詰まっていて、通常の方法では物理的に妊娠できない場合などに、この方法を選択することになります。

詳細は省きますが、簡単に言うと、ホルモン剤を使って卵巣の中で同時に複数個の卵子を成長させ、それを体の外に取り出し(採卵)、精子と受精させ(体外受精)、ある程度まで育ったものを子宮の中に戻します。卵子を発育させるのに連日の通院が必要だったり、数十万単位の費用がかかったりと、金銭的、精神的、肉体的にも負担がぐっと増える方法です。

ただ、どうしても妊娠したい人にとっては、ここが最後の砦になります。今の医学では、これ以上の方法はありません。1978年にイギリスで最初の体外受精児が誕生して以来、その数は年々増えています。日本では、2015年に約42万件の体外受精が行われ、約5万人の赤ちゃんが誕生しています。全体の出生数が約100万人なので、20人に1人は体外受精で生まれていることになります。

 

以上、不妊治療の話でしたが、最後にひとつだけ、重要なことをお伝えしたいです。

不妊治療の技術が発達し、昔なら妊娠できなかった人も、妊娠できるようになりました。そのせいもあって、妊娠・出産の年齢は、年々上がってきています。40代での初産も珍しことではなくなりました。女性の社会進出も背景にあると思います。

もし女性が「子供がほしい」と思われるのであれば可能な限り妊娠・出産を目指して頂きたいと個人的には思います。

ただ、忘れて欲しくないのは「妊娠はゴールではない」ということです。
妊娠して無事に出産したら、今度はそこから子育てが始まります。子どもと過ごす時間はおそらく、想像以上に楽しいものです。少しでも長く、その時間を過ごしたいと思うようになるかもしれません。

ですが、出会いがあれば必ず別れもあります。子どもと過ごす時間を少しでも長くするには、少しでも早く出産するしかありません。

「1年早く子供を産めば、1年長く一緒にいられる」

当たり前のことなのですが、たいていの場合、子どもが生まれて初めて、そのことに気づきます。その時になって、もっと早く産んでおけばよかったと後悔しないように、このコラムがいろいろ考えるきっかけになってくれれば嬉しいです。

制作著作:日本はぐケア協会